東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)151号 判決
一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(一) 本願発明の要旨および各引用例の記載内容が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがない。
(二) そこで、本件争点である、本願発明の要旨における「レーザ相互作用による増幅作用」と第一引用例における増幅作用との間には格別の差異がないといえるかどうかについて検討する。
1(1) 審決は、本願発明の要旨における「レーザ相互作用による増幅作用」について、原告主張のように二個のレーザダイオード間の帰還作用を含む相互増幅作用とは解さず、一方向のみの増幅作用と解したことは審決理由から明らかである。
(2) そこで、審決の右の解釈に誤まりがないかどうかについて検討する。
ⅰ 前記本願発明の要旨によれば、本願発明にかかる半導体光装置は、二個のレーザダイオードの相互作用による増幅作用を利用したものであることが認められる。
しかしながら、一般的用語として「相互作用」という言葉のみで当然に帰還作用を含む作用を意味すると解しえないことは明らかであり、レーザ装置に関し限つてみても、成立に争いのない乙第一号証によれば、本願発明とは同一の出願人である原告も、「レーザダイオードの発振モード変換を利用する光結合装置」に関する発明についての明細書において、「従来のレーザ光の相互作用を用いた光増幅及び光制御の方法は発光していない向きから光を当ててレーザ光を消すか、発光している向きから光を当てて、発光しているレーザ光を増倍することによつて、光の強くなつたり、弱くなつたりすることを利用するものであつた」と述べているところからみて、「相互作用」という語が当然には帰還作用を含む作用の意味で使用されてはいないことが認められるから、もし原告主張のように「相互作用による増幅作用」を帰還作用を含む相互増幅作用の意味に解せしめるためには、明細書中にその旨直接明示するかまたはその旨を推認せしめる記載がなければならない。
ⅱ(ⅰ) しかるに、本願明細書のどこにも「相互作用」は帰還作用を含む旨を直接明示した記載は見当らない。
(ⅱ) そこで、つぎに本願発明における「相互作用」が帰還作用を含む旨を推認せしめるような記載があるかどうかについて検討する。
(イ) 成立に争いのない甲第二号証(本願明細書)によれば、本願明細書には「レーザダイオード1および2に順方向バイアスする。この時レーザダイオード1からの光は2のダイオードと相互作用を生じ、2のダイオードの光量Lの電流1に対する変化dL/diは1のそれよりも10倍大きくなる」(第二頁第7行~11行)と記載されていることは原告主張のとおりであるが、それだけの説明では(なお、つぎの(ロ)参照)、「10倍大きくなる」ということが帰還作用を含む相互増幅作用の結果によるものでレーザダイオード2の出力光がダイオード1で増幅されてダイオード2に帰還するという現象を示すものであると解するには足りないし、その他このように解すべきことを裏付ける証拠はない。
(ロ) また、前記甲第二号証によれば、本願明細書には、本願発明の具体的構成について、「相互作用に対する幾何学的形状は厳密である」(第三頁第7行~8行)との記載および「レーザダイオード相互間及びレーザダイオード・フオトダイオード間は光伝送特性の良い光良導体例えば光学繊維3、4で結合するものとする。」(第二頁第19行~22行)との記載があることが認められるけれども、これらの記載によつては、二つのレーザダイオードを光良導体で結合する構成が明らかにされているだけで、二個のレーザ間の軸線(光軸)をどのように厳密にするのか、二個のレーザダイオード間の距離をどの程度にするのか、あるいはレーザダイオード1の左端面を鏡面にする構成はどうか等の条件については具体的な説明がないので、本願明細書中に前記のような記載があるからといつて、本願発明における「相互作用」を帰還作用を含むものと解することはできない。
(ハ) さらに、前記甲第二号証によれば、本願明細書には、「ダイオード2に順方向電流に重畳して交流信号を加えると、レーザダイオード単一の場合に比べてdL/diが10倍大きくなる」(第二頁第12行~13行)と記載されていることが認められるが、これを同号証(本願明細書)中の「・・・従つて受光体5例えばフオトダイオードでAC変調光を受けた時、全体としての変換効率αは現状の10倍、即ちα=250%となり電流増幅作用を生ぜしめ得る」(第二頁第14行~17行)との記載に照らすと、交流信号をレーザダイオード2に加えるのはダイオード1からのレーザ光をAC(交流)変調するためであると解するのが相当であり、原告主張のようにこの交流信号が増幅されて受光体に検知されるものと解することはできない。
原告は、ダイオード2に与えられた電気的信号によつて生じたダイオード2から放出されたレーザ光の信号は、少なくとも一回はレーザダイオード1に入射してその出力がさらにダイオード2に入射し(帰還現象)、その出力が受光体に検知されるという過程を辿るもので、そうでないとダイオード2のdL/diが10倍になることはなく、また第一図の構造で増幅が起ることはないと主張するけれども、本願発明の実施例に関する明細書の記載ならびに図面からは原告主張のように解することはできず、また第一引用例のような配列の二個のレーザダイオードでも一方向増幅にせよ増幅が行なわれている(このことは後記のとおりである)のであるから、少なくとも一回の帰還現象なしには増幅は行なわれない、とする原告の主張は理由がない。
ⅲ そうすると、審決が本願発明におけるレーザ相互作用による増幅作用について、これを一方向増幅と解したことに誤りはないことになる。
2 ところが、前に述べたとおり、第一引用例の記載内容が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがない。
これによれば、第一引用例における増幅作用は審決が解したとおり一方向増幅のものであると認められる。
3 したがつて、本願発明においては、「増幅作用」について特に「レーザ相互作用に依る」という条件限定が付されており、第一引用例では右のような限定が付されていないとしても、両者の間には格別の差異がないとした審決の判断に誤まりはない(なお、本願明細書に前記「…10倍大きくなる」という効果の記載があるが、第一引用例のものと格別差異のある構成が示されていない以上、格別の効果があるとはいえない。)。
(三) そして、前記本願発明の要旨から明らかなように本願発明の装置は受光体を具備しているのに対し、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例には受光体についての記述がないことが認められるけれども、受光体なしには同号証第一図および第二図記載のような実験結果を得ることができないと考えられるから、第一引用例のものも受光体を具備していることがうかがわれるところ、そのことはさておいても、前に述べたとおり第二引用例の記載内容についての審決の認定については当事者間に争いがないから、受光体を具備する構成については第二引用例に示唆があることは明らかである。
(四) そうすると、本願発明は第一、第二両引用例に基づいて容易に発明できたものであるとした審決の判断は正当として是認でき、審決を取り消すべき事由はない。
三 よつて、本訴請求を棄却することとする。